昼下がり。
なんちゃんとミチは、駅前のカフェで並んで座っていた。
テーブルの上にはコーヒーと、
なぜか旅行会社でもらってきたパンフレットの束。
「なんでこんなの持ってきたの?」
なんちゃんが言うと、ミチは得意げに答える。
「だって、見てるだけで楽しいじゃん。
行かなくても、行った気になるやつ」
「それ、ただの妄想旅行だよ」
「妄想でもテンションは上がるの!」
ミチはパンフレットをぱらぱらめくって、
急に手を止めた。
「……あっ!」
「なに?」
ミチの目が、きらっと光る。
「エジプト!!
ピラミッド!!
ミチ、これ行きたい!!」
写真には、砂漠の中にそびえ立つ三角形。
圧倒的存在感の、あのピラミッド。
「すごくない?
なんかもう“強そう”じゃん」
「感想が雑すぎる」
ミチはパンフレットを指でなぞる。
「ねえねえ、
あの一番上、めっちゃ高そうだよね」
「うん、高いね」
「登る人、少なそう」
「……そうだね」
ミチは続ける。
「下の方はさ、
人いっぱい写ってるのに」
なんちゃんは、ふっと視線を落とした。
(ピラミッド、か……)
その形を見た瞬間、
頭の中で別の“ピラミッド”が浮かんでいた。
「ねえミチ」
「なに?」
「それ見て、
私はちょっと違うこと考えてた」
「え、なに?
まさか“歴史”とか?」
「違う」
「“文明の神秘”?」
「もっと現実的」
なんちゃんは、パンフレットを軽く閉じて言った。
「資産ピラミッド」
「……は?」
ミチは一瞬止まる。
「いきなり現実ぶっこんでくるのやめて?」
「ごめん。でも形が似てて」
「似てるけど!
旅の話してたのに!」
なんちゃんは苦笑いしながら続ける。
「下は人が多くて、
上に行くほど少なくなる」
「……あ」
「で、頂上は、
ほんの一握り」
ミチはパンフレットを見直した。
「……確かに」
「しかもね」
「うん?」
「登るほど、
風も強くなるし、孤独」
ミチは急にパンフレットを閉じた。
「やっぱやめとく」
「早いな」
「暑いし、孤独だし、
ミチ、下の方でいい」
「現実的だね」
ミチは椅子に深く座り直して言う。
「でもさ」
「なに?」
「ピラミッドって、
“登らなきゃダメ”なわけじゃないよね」
「うん」
「下にいたって、
ちゃんと生きてるし」
「そうだね」
ミチは少し得意そう。
「じゃあミチは、
日陰でジュース飲む係」
「急に観光モード」
「だって旅だもん!」
二人は顔を見合わせて笑った。
少しして、ミチが思い出したように言う。
「ねえ」
「ん?」
「ところでさ」
「なに?」
ミチはにやっと笑う。
「エジプトのピラミッドって、
いつ連れて行ってくれるの?」
なんちゃんは一瞬言葉に詰まって、
「……まずは、
パンフレット卒業してからかな」
「えー!
じゃあ妄想旅行続行!」
今日も、話は現実と妄想の間を行ったり来たりしている。
今日の道しるべ
ピラミッドを見て、
あなたは「登りたい」と思いましたか?
それとも「今いる場所でいい」と思いましたか?
どちらを選んでも、
その選択は、あなたのものです。
