グラス越しに、彼の指先が動いた。
見せられたのは、連絡先でも、地図でもない。
――画面に並んでいたのは、
金額、期間、条件。
そして、やけに丁寧な説明文。
「無理にとは言わないけどさ」
そう言いながら、彼は笑う。
悪くない数字。
想定利回りも、リスクも、きちんと書いてある。
……ちゃんと“考えられている話”。
「こういうの、嫌いじゃないでしょ?」
図星で、少しだけ目を逸らした。
正直に言えば、
その話自体は、ちょっと魅力的だった。
条件も、タイミングも、今の私に合っている。
でも――
それ以上に気になったのは、
この場で見せてきたこと。
家でも、仕事でもなく、
この距離、この空気で。
「今じゃなくてもいいよ」
そう言われたのに、
画面は消されない。
……ずるい。
数字を見ているはずなのに、
判断しているのは、
頭だけじゃないって分かってしまう。
グラスを置いて、私は言う。
「……今日は、決めない」
「考える時間、ちょうだい」
少しだけ不満そうな顔。
でも、それ以上は踏み込んでこない。
その“引き方”が、
一番厄介だってことも、
たぶん本人は分かってない。
帰り道、スマホを開く。
さっきの画面はもうないのに、
数字だけが、頭の中に残っている。
――べ、別に揺れてない。
ただ、
選択肢が増えただけ。
それだけ。
🧭 今日の道しるべ
あなたが迷った理由は、
「条件」でしたか?
それとも――
「出されたタイミング」でしたか?
