数日後、街でばったり会った。
人混みの中なのに、すぐわかった。
視線が、真っ直ぐすぎたから。
「久しぶり」
挨拶より先に、目線が落ちる。
隠そうともしていないのが、逆にわかりやすい。
――ああ、やっぱり。
彼女――私の友達とは、うまくいっていないらしい。
というより、もう終わらせたい、と。
「正直さ、合わないんだよね」
そう言いながら、理由は曖昧。
代わりに出てくるのは、別の話題。
年収。
職業。
資産。
将来性。
数字を並べるたびに、距離が近くなる。
「みっちゃんみたいな人なら、わかってくれると思って」
その“わかる”の中身が、何を指しているのか。
言葉にされなくても、十分すぎるほど伝わってくる。
視線は、ずっと同じ場所。
顔じゃない。
考え方でもない。
――ここだけ。
胸元に集まる視線が、答えだった。
「抱きたいんだ」
そう言われて、何も返せなかった。
断る理由は山ほどあるのに、言葉が追いつかない。
友達の彼氏だから。
信頼を壊したくないから。
それ以上に――
やったら、捨てられる。
確信があった。
この人は、私そのものじゃなくて、
“今見えている部分”しか見ていない。
数字も、肩書きも、全部同じ。
興味を引くための道具。
「……そういう話じゃないんだけど」
やっと絞り出した言葉は、弱かった。
彼はまだ話す。
成功の話。
余裕の話。
選べる立場だという話。
私はただ、どう断るかを考えていた。
強く言えば、逆上するかもしれない。
曖昧にすれば、期待させる。
一番難しいのは、
“何も起きていないまま終わらせること”。
「今日は用事があるから」
それだけ言って、距離を取る。
背中に残る視線が、
まだ胸元を追っている気がして、
少しだけ歩幅を速めた。
――選ばれなかった男の数字より、
選ばなかった自分の判断のほうが、
今日はずっと価値がある。
🧭 今日の道しるべ
あなたは、
“条件が良さそうに見える誘い”を、
ちゃんと中身まで見ていますか?
