友達の彼氏の誘いを、きっぱり断った夜。
あれこれ揺れた頭の中が、ようやく静かになったと思った、そのとき。
ピンポーン。
……また?
時計を見ると、もう遅い時間。
インターホン越しに映ったのは、見たことのない顔だった。
「お隣に引っ越してきた者です」
少し低めで、落ち着いた声。
ドアを開けると、そこに立っていたのは、私より少し年下に見える男性——
聞けば、20歳を超えている大学生で、進学を機に引っ越してきたらしい。
引っ越しの挨拶、と言って差し出された小さな紙袋。
丁寧すぎるくらいの物腰で、言葉遣いもきちんとしている。
……なのに。
視線が、妙だった。
男の人って、どうしてこうなんだろう。
悪気がないのか、無意識なのか。
目線は正面なのに、ちゃんと合っていない。
「よろしくお願いします」
それだけ伝えて、早々にドアを閉めた。
部屋に戻って、紙袋を開ける。
中に入っていたのは、ちょっと洒落た焼き菓子と、簡単なメモ。
——意外と、センスはいい。
顔も、別に悪くない。
話し方も、軽すぎない。
変に距離を詰めてくる感じもなかった。
「……最初は、まあ、いいかな」
自分でも驚くくらい、あっさりそう思ってしまった。
男に頼らない。
誰かに寄りかからない。
そう決めたばかりなのに。
人は、近くに現れた存在に、
どうしても意味を与えたくなる。
——その夜は、それで終わった。
でも。
次の日。
ピンポーン。
また、チャイムが鳴る。
今度は、何?
⸻
▶︎ Season 2|ep2 へ続く
🧭 今日の道しるべ
その違和感は、
「警戒」でしたか。
それとも、
「まだ名前のついていない感覚」でしたか。
人は、
はっきり断ったあとほど、
次の曖昧さに弱くなる。
あなたは今、
どんな違和感を
見て見ぬふりしていますか?
