引っ越し挨拶の次の日。
土曜の朝。
カーテン越しの光がまぶしくて、まだ布団から出たくなかった。
そんなとき。
ピンポーン。
……また?
休日の朝に鳴るチャイムって、だいたいろくな用事じゃない。
インターホンの画面をぼんやり見て、ため息をつく。
映っていたのは、昨日の隣の人。
年下っぽい、大学生の男の子。
たしか成人してるって言ってた。
「……お隣さんです」
仕方なくドアを開ける。
髪はボサボサ、ノーメイク。
でも隣だから居留守は使えない。
「助けてほしくて……」
その声、思ったより切羽詰まっていた。
理由を聞くと、出てきたのは——
いわゆる、G。
……え?
男でしょ?
そう思ったけど、顔は本気で怯えていて、
ちょっとだけ、可愛い。
私は平気。
仕方なく、スリッパのまま隣の部屋へ。
退治は一瞬。
でも、その間の姿勢は最悪だった。
四つん這い。
床に手をついて、前屈み。
視線が、わかる。
お尻のほう。
それから、首元。
見てるかどうかじゃない。
見られてる“気配”がある。
でも今は集中。
Gを逃すわけにはいかない。
退治完了。
「本当にありがとうございます……!」
やたらと感謝される。
その勢いに少し笑って、部屋を見渡した。
……綺麗。
というか、レベルが違う。
高そうな家具。
揃った食器。
生活感がない。
「……金持ち?」
ぽろっと出た。
冗談半分で言ってみる。
「もしかして、
いつもはお手伝いさんがやってくれてたとか?」
否定しない。
——マジか。
なるほど。
だからGすら自分で無理なんだ。
ちょっとだけからかって、部屋を出る。
ドアが閉まる直前まで、
彼の目線は、私から離れていなかった。
その日の夜。
壁の向こうから、
聞き慣れない“音”がする。
……え?
なに、これ。
時計を見る。
まだ、そんな時間じゃない。
耳を澄ますと、
声……?
思わず息を止めた。
⸻
▶︎ ep3 へ続く
🧭 今日の道しるべ
助けたあとに縮まる距離は、
「優しさ」でしょうか。
それとも——
次の選択肢の始まりでしょうか。
