夜。
部屋の電気を落としたはずなのに、なぜか落ち着かなかった。
静かなはずのマンション。
テレビも消して、スマホも伏せているのに、胸の奥がざわつく。
……なんでだろ。
考えなくてもわかってる。
気になっているのは、隣。
でも、耳に届いてくるのは気配だけじゃなかった。
——声?
壁の向こうから、はっきりとした音がする。
話し声じゃない。
歌。
それに、ギター。
思わず、壁に少し近づいた。
このマンション、別に壁が薄いわけじゃない。
それなのに聴こえるってことは……どれだけ声を出してるの。
「……大丈夫?」
小さく呟きながら、耳を澄ます。
意外だった。
思っていたより、ずっと上手。
低すぎず、高すぎず。
まっすぐで、少しだけ掠れた声。
ギターの音も、丁寧で、優しい。
顔は悪くない。
お金持ち。
怖がりで。
……歌が、こんなに綺麗。
「……やば」
そう思った瞬間、胸の奥がきゅっとする。
引っ張られるみたいに、音に集中してしまう。
歌詞はよく聞き取れないのに、感情だけが伝わってくる。
気づいたら、呼吸が浅くなっていた。
——だめだ。
頭ではわかってるのに、
身体は正直だった。
じんわりと、熱が集まる。
理由をつける前に、感覚が先に来る。
土曜の夜。
壁一枚向こうの歌声に、
みっちゃんは静かに心を揺らされていた。
「……ほんと、困る」
そう思いながら、目を閉じる。
歌が終わるまで、
それからしばらくの余韻まで、
みっちゃんは眠れなかった。
そして、そのまま——
ドキドキを抱えたまま、いつの間にか眠りに落ちる。
⸻
週明けの朝。
ゴミ捨て場で——
▶︎ sp4 へ続く
🧭 今日の道しるべ
声だけで心が動く夜は、
「想像」が始まった合図かもしれません。
