月曜の仕事は、いつも通り忙しかった。
会議、メール、急な対応。
気づけば頭の中はずっとフル回転で、身体のほうが先に音を上げていた。
それでも今日は、奇跡的に残業なし。
エレベーターに乗った瞬間、肩が少しだけ軽くなる。
……でも。
正直、もう何も作りたくない。
家に帰る前に寄ったスーパー。
照明の下で目に入ったのは、割引シールが貼られたお弁当。
「これでいいかな……」
そう思った、そのとき。
「晩ご飯の買い出しですか?」
声をかけられて、心臓が一瞬跳ねた。
振り向くと、そこには――
お隣の大学生。
え、なんでここで?
「え、あ、うん……」
反射的に答えたあと、手元を見る。
割引シール。
……まずい。
「今日は、シチューを作ろうと思って」
自分でもわかるくらい、ちょっと見栄を張った声だった。
彼は笑って、自分のカゴを少し傾ける。
中には、同じようにお弁当。
「簡単でいいですよね」
そう言われて、胸の奥がちくっとする。
年上として、言うべきことはある。
でも、なぜかそれができなかった。
シチューの材料を一通りカゴに入れて、
気づけば一緒にレジを通っていた。
マンションまでの帰り道。
今までちゃんと並んで歩いたことがなかったから、
ここで初めて気づく。
……背、高い。
歩幅も、肩の位置も、全然違う。
隣に立つと、自然と見上げる形になる。
高身長。
たぶん、お金持ち。
しかも、礼儀正しい。
どうするの、これ。
彼が何か話していた気がする。
でも内容は、ほとんど頭に入ってこなかった。
考えていたのは、
シチューでも、弁当でもなくて。
ただ、
この距離感が、
少しずつ変わってきていること。
マンションの前で別れるとき、
軽く会釈して、彼は笑った。
その笑顔を見送ってから、
ようやく息を吐く。
……月曜なのに。
疲れてるはずなのに。
どうして、
こんなに胸が落ち着かないんだろう。
⸻
▶︎ sp6「シチューのお裾分け」へ続く
🧭 今日の道しるべ
疲れている夜ほど、
「誰と帰るか」で、
心の余白は変わるのかもしれません。
