翌朝。
土曜日の朝。
目は覚めているのに、体が動かなかった。
昨夜のことが、何度も頭の中で繰り返されていたから。
あんな声を聞いてしまったら、仕方ない。
胸の奥がざわついて、どうしても眠りが浅くなる。
気持ちを落ち着かせる方法は、それしか思いつかなかった。
布団の中で、スマホをいじる。
時間だけが、静かに過ぎていく。
そのとき。
——廊下から、声。
はっきりとした、女性の声。
例の彼女だ。
かなり感情が高ぶっているのが、壁越しでもわかる。
「……そんなことするなら、別れたほうがいい」
言葉の断片だけが、耳に残る。
詳しい内容までは聞こえない。
でも、空気が張りつめているのは、嫌というほど伝わってきた。
足音。
早足。
そのまま、走り去っていく音。
思わず、玄関を少しだけ開ける。
廊下の先に、彼が立っていた。
追いかける様子は、ない。
「……追いかけなくていいの?」
自然と、そんな言葉が出ていた。
彼は少しだけ間を置いて、首を振る。
「うん。もう……」
それ以上は、言わなかった。
私はパジャマ姿。
このまま立ち話を続けるわけにもいかず、
それ以上は聞けないまま、ドアを閉めた。
でも。
閉めたあとも、彼の表情が頭から離れない。
追いかけなかった理由。
言葉を濁した“もう”の続き。
気持ちが整理できないまま、着替える。
鏡に映る自分は、少し落ち着かない顔をしていた。
……気づいたら。
私は、彼の部屋の前に立っていた。
⸻
▶︎ sp9|彼の心の中 へ
🧭 今日の道しるべ
踏み出した一歩は、
「優しさ」だったのか、
それとも
「期待」だったのか。
あなたは、
どちらだと思いますか?
