なんでも道しるべ

資産運用は、判断よりも耐える時間が長い。 数字と感情の間で揺れながら、日常の出来事と一緒に綴る記録。 案内役は、ちょっとツンな相棒「みっちゃん」。 — 資産運用・投資の記録ブログ

🐾 みっちゃんの日常|シーズン2 エピソード9 「玄関の内側で、言葉が足りない」

彼の部屋の前に立っていた。


どうしてここに来たのか、

自分でもはっきりした理由はなかった。


インターホンを押す。

短い電子音。


ドアが開いて、彼が立っていた。


「……」


言葉は出てこない。

彼も、何も言わない。


それなのに、

気づいたら私は、部屋の中にいた。


三度目の室内。

見慣れたテーブル、同じ椅子。

でも空気だけが、これまでと違う。


向かい合って座る。

しばらく、沈黙。


先に口を開いたのは、彼だった。


喧嘩の理由は、

思っていたより些細で、

でも決定的だった。


——髪の毛。


前に私が来たときのものらしい。


昨日、彼女は私を見てから、

ずっと疑っていたという。

質問が続いて、

何度も、何度も。


「……だから、ああなった」


それ以上は言わなかったけれど、

声のトーンだけで、昨夜の緊張が伝わってきた。


今朝、

その髪の毛を見つけた。


彼女は確信した。

私が、この部屋に来ていることを。


そして、あの廊下。


彼は、少し視線を落としてから言った。


「もう、彼女のことはいい」


胸が、わずかに跳ねる。


「それより……」


一拍。


「あなたが、頭から離れない」


空気が、止まった。


私も、同じだった。

でも、それは言えない。


誰かから奪う形で、

近づきたくはなかった。


「……ちゃんと、けじめはつけて」


自分でも驚くほど、落ち着いた声が出た。


それに、

もう一つ。


「年下っていうのも、正直、気になる」


彼は黙って聞いていた。


近い。

でも、触れない。


この距離が、いちばん危うい。


引くべきなのか。

待つべきなのか。


答えは、まだ出ない。


ただひとつ分かっているのは——

もう、戻れないところまで

心は進んでしまっている、ということ。

 


▶︎ sp10(シーズン2 最終回)

「同級生、現る」

 


🧭 今日の道しるべ

言葉にしなかった想いは、

消えたのでしょうか。

それとも、

もっと強く残ったのでしょうか。

 

f:id:anyguidepost:20251221193816p:image