会話は、途切れなかった。
彼は、ゆっくりと言葉を選ぶように話した。
みっちゃんが、どうして頭から離れないのか。
「優しいし、料理もできるし……大人で」
そう言われるたびに、胸の奥がじんわり熱くなる。
嬉しいのに、同時に不安も湧く。
彼女の存在。
それから――年下の大学生、という現実。
(私より、学生の子のほうが合ってるよね)
そう思ってしまう自分がいる。
でも、視線が絡むたび、身体は正直だった。
距離が、近い。
言葉は減っていくのに、空気だけが濃くなる。
目を逸らす理由を、どちらも失っていた。
顔が、少しずつ近づく。
触れるか、触れないか――
その瞬間。
着信音。
彼のスマホだった。
画面に表示された名前を見て、
みっちゃんの心臓が強く跳ねる。
――お母さん。
一気に現実に引き戻される。
彼も、はっとした表情で通話に出た。
電話の向こうから聞こえる、日常的な声。
「明日、そっち行くから」
その一言で、さっきまでの空気が、嘘のようにほどけた。
通話を終えたあと、二人は視線を合わせない。
今日は、ここまで。
続きは、また今度。
そういう距離感で、別れた。
翌日、日曜日の朝。
エントランスに、見慣れない車が止まった。
ちょうど外に出ていたみっちゃんは、足を止める。
彼の両親。
……それだけじゃなかった。
後部座席から降りてきたのは、
やけに元気そうな、大学生くらいの女の子。
「うわー!久しぶりー!」
その声に、彼は一瞬で顔をしかめた。
「……げ」
八年ぶり、らしい。
母親の話では、
今朝たまたま再会して、
「一人暮らし見たい!」と言われて連れてきたとのこと。
――偶然にしては、出来すぎている。
みっちゃんは、その様子を少し離れたところから見ていた。
胸の奥で、何かが静かにざわつく。
これは、終わりじゃない。
むしろ――
波乱の始まり。
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sp1「同級生は、幼馴染の関係」
🧭 今日の道しるべ
触れなかった一瞬は、
「理性」だったのか、
それとも――
次に進むための、準備だったのか。
