なんでも道しるべ

資産運用は、判断よりも耐える時間が長い。 数字と感情の間で揺れながら、日常の出来事と一緒に綴る記録。 案内役は、ちょっとツンな相棒「みっちゃん」。 — 資産運用・投資の記録ブログ

🐾 みっちゃんの日常|シーズン2 番外編(sp4+) 「隣に住む、彼女のこと」

※本記事は、sp1〜sp4で描かれた日常を、隣の部屋から見ていた彼の視点で描いた番外編です。

 

——お隣の大学生目線——


二浪した。


正直、胸を張れる経歴じゃない。

でも、ようやく大学に行けることになって、

両親は「一人暮らしの練習だ」と言って、このマンションを用意してくれた。


家具も、食器も、全部そろっていた。

自立しろってことなんだろうけど、

料理も家事も、正直なところ何一つできない。


——せめて挨拶くらいは、ちゃんとしなさい。


母にそう言われて、

引っ越し当日、紙袋を持って隣のインターホンを押した。


ピンポーン。


ドアが開いた瞬間、

頭が、真っ白になった。


……可愛い。


いや、それだけじゃない。

全体のバランスが、反則的だった。


目線を上げようとしても、

どうしても、そこに吸い寄せられてしまう。


慌てて視線を逸らして、

とにかく挨拶だけして、すぐ部屋に戻った。


なのに。


部屋に戻っても、

さっき見た光景が、頭から離れなかった。


あの距離感。

あの空気。


夜になっても、落ち着かなくて、

結局、眠りにつくまで時間がかかった。

 

 


次の日の朝。


物音で目が覚めた。

……いや、違う。


動いてる。


黒くて、素早くて、

見た瞬間、身体が固まった。


どうすればいいかわからなくて、

気づいたら、隣のインターホンを押していた。


ドアを開けてくれた彼女は、

寝起きで、パジャマ姿だった。


……やばい。


目線の置き場が、見つからない。


事情を話すと、

彼女はため息ひとつで、部屋に入ってきてくれた。


退治は、あっという間。


その間、

床に手をついた彼女の背中と、

ふとした拍子に見える首元から、目を逸らすのが精一杯だった。


「金持ち?」


冗談っぽく言われて、

否定も肯定もできずに、曖昧に笑った。


……普通だと思ってた。

でも、あの部屋、やっぱり違うんだろうか。

 

 


その夜。


どうしても、頭が落ち着かなくて。

昔から好きだったギターを手に取った。


歌っていると、

余計なことを考えなくて済む。


壁が薄くないことはわかっていたけど、

気づいたら、少し声が大きくなっていた。


歌い終わったあと、

不思議と、心は静かだった。


昨日よりも、ちゃんと眠れた。


次に会ったら——

今度こそ、ちゃんと顔を見て話そう。

 

 


週明けの朝。


ゴミ捨て場で、手が止まった。


……これ、どこに出すんだ?


困っていると、

後ろから声がした。


「それは、こっちですよ」


彼女だった。


今日は、ちゃんとメイクをしていて、

でも、自然で。


頑張って、目を見る。


胸じゃなくて。

ちゃんと、目を見る。


会話は短かったけど、

それだけで、少し自信がついた。


——今日は、ちゃんとできた。


そう思いながら、

大学へ向かった。

 

 


▶︎ 次回:ep5

仕事終わりのスーパーで

 


🧭 今日の道しるべ(番外編)

「惹かれる理由」は、

案外、触れられない距離にあるのかもしれない。

 

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